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 第141回授業研究会

ビデオによる授業研究(32)

 2011年1月15日(土) 午後2時から
  

第141回授業研究会は、会場校の安富良貴先生(東京都立両国高校附属中学校)の中学3年生の授業を使って行われました。長勝彦先生はまだ病気療養中で直接参加はできませんでしたが、会の中でメッセージも紹介されました。

安富先生のお話しでは、このような形で授業を公開するのは初めてだそうです。記録のビデオを撮る時も、この研究会に参加する時もかなり緊張されていたそうです。しかし、時間をかけて用意された指導案や指導に使った資料は年間計画や評価資料なども添えられていてよく整理されていました。これは、両国附属中の学校としての指導体制を裏付けるものです。今回はこの記録を担当している杉本も同僚として一緒に準備してきましたから、協議会で出てきた議論の一端を紹介して、説明を加えていくことで記録に代えさせていただきます。

さて、授業のビデオを再生して一番初めに参加者に印象づけられるのが、安富先生の英語です。この印象は授業の最後まで変わることはありません。授業でのTeacher Talkはほぼすべて英語で行われています。そしてその発話が非常にクリアーでていねいです。スピードもかなり早く、英語の分量や情報量、それから繰り返しの多さも見事です。このレベルの英語を日常的に聞いて授業を受けている生徒にとっては、授業そのものが大きな教材になっているわけです。当然これは大きな自信になっています。ルーティーンの学習内容も新しい内容も、この「聞いて分かる」経験が根底にあって進んでいくのですから、ここに付いていくことは生徒にとって最初のサバイバルですね。しかし急にある時やっているわけではないし、段階を追って数年間続いていくのですから、いつかはこれが当たり前になるわけです。これは、次の様々な発展的な活動への意欲を喚起します。言い換えると「学習者による発信」をめざす英語学習の基礎基本を支えるものといえます。

この「当たり前」のレベルをしっかり確保するということはとても重要です。どの生徒でも、普通に、自然にできること、つまりこの「聞いて分かる」という部分は授業の基盤というだけでなく、英語学習を継続していくための意欲を支えています。そして、ここを死守することは指導者の志と問題意識の高さを示すと思います。

Teacher Talkが充分に機能しているか、よりよい表現はないか、発話のペースや英文は的確か、さらに生徒に強調する時にはどうしたらよいかなど検討すべき課題はありますが、これは授業者が自分のビデオを分析して行うべき作業です。自分ではなかなかわかりにくいことです。安富先生には「初めてのビデオ収録」を通して、次のステップが見えてくるという貴重な経験を生かして欲しいと思います。また一方で参観者に取っては、この点はよく見えますから、自分の授業に当てはめて考えていく貴重な機会になります。

そのほか議論になったことをいくつかあげておきます。

・Last Sentence Dictationは基礎英語3のテキストを使っています。この研究会では教科書を使ったものはよく紹介されていますが、別の素材で行うのはかなり高度な学習方法で、生徒にとってもチャレンジです。この授業では生徒もよくこなしていました。しかし、この指導の手法とねらいを考えると、音読やシャドーイングとの関連と、暗記と文型練習の要素とのバランスが崩れてしまう心配があります。

・Pairworkでは会話のモデルの場面設定が不十分でなかったかという視点が指摘されました。関係代名詞は口頭でフル・センテンスを発話する場面設定が作りにくいところがあります。ある程度自然な会話場面で口頭練習させるようにするべきでしょう。テキストベースでなく、ビジュアルや効果音などを用いた場面設定を工夫するのも手です。かなり込み入った場面を出現させることもできますから。口頭練習であるPairworkでWritingなどの技能も刺激するのは重要です。4技能は関連させて身につけるのが最も効果的ですから。

・Oral Introductionはパワーポイントのスライドを使って、安富先生の英語力でかなりの量の情報を提示しました。Rachel Carsonを紹介する内容で、生徒にはそれほど身近な話題ではなかったはずですが、テキストを開く前にほとんどの内容をつかませていました。音読の練習や単語の練習などはこの時間だけでは不十分でしたが、指導案では次の時間を合わせてこの1ページを進める設定になっています。音読指導の場面はまた別の機会に紹介してもらいましょう。

・全体として、生徒の発話がrepeatによっている印象が強い。Bingoの単語練習、Pairworkのdialoguの練習、テキストの音読練習、たてよこドリルの練習場面など。repeatは生徒にとってはもっともやりやすい口頭練習なので重要ですが、change of paceも必要。生徒から発話させる形態も工夫したいところです。

最後に、授業全体をさらに大きな視点から見ていくために考えるべきことをあげておきます。

それは、言語材料(ここでは関係代名詞)の指導と言語活動(ここではPairwork)のバランスです。この授業では、言語活動ではありませんが、Last Sentence Dictationやたてよこドリルなどもこの文型の指導のねらいの中に置かれています。ドリル的な練習と口頭練習させる場面設定などをきちんと整理しないと、生徒に送られるメッセージが結果的にねらいとずれたところを強調してしまうということも起こります。

「何ができるようになること」が本時のねらいであるか、単元では?、学期では?、年間では?、そして3年間では?、と整理していくと、長期と短期のねらいといくつかの指導が混在する複雑な構造が見えてきます。そしてそれぞれのステップごとの重要性をしっかり認識していくと、いくつかの指導方法を使い分けることも考えなければなりません。それらが見えてくると、授業とそこに向かう自分の立ち位置が劇的にはっきりと見えるようになります。「目から鱗」はかなり古い表現ですが、今なら「普通画質からハイビジョンへ」、それとも「2Dから3D画面」に変わるぐらいの変化と言えばいいでしょうか。

いつの間にか、授業研究会の記録から一歩踏み出してしまったようですが、これも安富先生の授業のおかげです。ビデオを撮る時も、先日の研究会で議論する時も、そしてこの記録をまとめている時も、気がつくといろいろなことを考えていました。これだけ刺激を受けたら、僕自身も変わらないといけませんね。残り少ない教師生活ですが、年の初めにこういう決意を持たせてくれた安富先生に感謝して、今年も授業研究会を続けていきます。(文責:杉本 薫@両国附属中)


 
 

 

    

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