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第123回授業研究会

2008年 1月19日(土) 午後2時から

会場は、東陽中学校

テーマ 「授業を見直そう」 ビデオによる授業研究(17)

西葛西中学校の太田恵理子先生は、自己紹介にあったように教職5年目の先生です。教職に就く前にも別の仕事の経験もある「転職」経験者です。今回先生とお話しする機会を得て、先生の教育への熱意と期待に感激しました。大学新卒で初任という、多くの教師の「普通の」教師コースとはひと味違う社会経験と教育への意欲はとても貴重であると思います。

さて授業は2年生、前回に続いて比較級の指導です。会で話題になった論点をいくつか紹介しておきます。

・生徒の声がよく出ていて、先生が心配していたしらけた雰囲気はほとんど感じられません。ワークシートにもOralで取り組む部分と書き込むドリルの部分があって、それぞれに非常に真面目に取り組んでいます。学習に対する基本的な態度はよくしつけられています。また、この授業のクラスは特に英語が好きなのか、笑顔が絶えずよく楽しんで参加している様子が見られました。他の時間は寝ているような子も元気いっぱいで、ちょっとうらやましいという声も。

・比較について。この授業では持ってきた鉛筆の長さを比べていました。My pencil is long.という生徒とMy pencil is short.という生徒の鉛筆を比べてtarget sentenceを引き出していましたが、これについては形の指導に主眼が置かれているのではないかと言う意見も。比べるなら、My pencil is long.という生徒二人を出してどちらもlongという中でlongerを引き出す方が面白い。その後の練習のワークシートも、金閣寺と西葛西中の古さ(old)など、かなり結果のはっきりした比較例がほとんどであまり面白くない。最後の東京タワーとエッフェル塔は微妙な差で生徒の関心が向いたかなと思います。もう少し、悩ませた方が言葉を体感できるのでは。また、ゲーム性を取り込んで、楽しませてはどうかという意見も。

・生徒は100%塾へ行っているという状況だそうです。新しい教材も、すでに知ってる生徒がほとんどで、面白くないのではないか。という太田先生の心配も聞かれました。長先生からも「塾でできない英語教育」という問題提起がありました。学習塾の補修への参入がニュースになっている今、我々はもう一度学校の英語教育を見直す必要があります。会では学校だけができる学習としては「音読指導」「Oral Introduction」「生徒のpresentation発表活動」等があげられていました。言いかえると、「英語を使う体験」を直接指導できることではないかと思います。

・もう一つこの議論と関連が深い問題提起がありました。文法で何を教えるかということです。太田先生もこの点を自分の課題にあげられていました。pattern practiceで文型を教え込むことの他に何ができるか。という疑問です。文法というと「文型の指導」という形の指導に目が行きますが、本当にそれだけでしょうか。形の指導だけであれば、確かにドリル練習でほとんど徹底することができます。しかし、言葉には使われる場面と使われる意味があります。「なぜこの場面でこういう言い方をするのか」ということを後から説明するのに文法は非常に有効ですが、初めに文法ありきではないはずです。文法をしっかり教えるということは、言葉をある場面の中で、実感を持って使用する訓練が根底に不可欠ではないでしょうか。ということは、Oral で充分練習する機会を持つことですから、いわゆる言語活動が重要なわけです。これも塾ではできない指導のはずです。手間と時間が膨大にかかって、短期間では劇的な効果は期待できませんから。

・教科書と文型の扱い方についての議論として。文型練習が先で教科書が後というパターンも再考の余地あり。教科書では、ある使用場面を設定してある表現を紹介しています。しかし、これは必ずしもこの文型を教えるのにこの題材というように、別々のものを機械的に組み合わせているだけではない。教科書には、題材と場面がその文型を含む表現に密接に結びつく、言わば必然性のようなものも用意されている。そうなると文型を勉強して、その使用場面を読んで理解して、という文法と言うよりは文型変化のシラバスだけで授業を構成するのはどうか。時には、その題材や場面の中で、文法を理解させていくことも必要ではないか。今回は特にheatislandという題材そのものにも理解させるのに手間がかかるところだけにOral Introductionには工夫の余地があるのではないか。

・太田先生の指導案には、Oral Inrroductionを短くコンパクトにと留意点が上がっていました。指導安では3分配当。逆にもっと時間をかけていいのではないかという意見もありました。長先生からはOral Introductionは例えば大学生に練習させる時には、8分間、Oral Interactionとして生徒とのやりとりの中で理解を深めるということを指導しているというお話しがありました。語研で研究しているPalmerの考え方には教科書の内容をどれだけ紹介できるかというカバー率も重要な視点のひとつです。まさに学校の教師の腕の見せ所で、しっかり準備すべしですね。

・Oral重視の指導で入試に対応できるのかという批判に対しては、長先生から明確な答が。音声中心の指導はその後に文字を使った書く指導で完成する。音から文字へ。言えるようになったことは、次の段階として、必ず書けるように指導する。この原則を守っていくことで、入試にも十分対応できる。

・これはもう3年間も続いているこの授業研究シリーズで恒例の指摘です。ねらいをしっかりもって授業を組み立てること。ここでいうねらいとは3年間の授業のゴール、評価規準と言いかえてもよい。長いスパンで持つべきゴールと、本時で解決するべきゴールの違いをはっきり自覚して計画を立てること。


太田先生は、教師が授業で発話する英語を全てノートに用意しておくそうです。これはよく紹介される方法ですが、実行するのは本当に大変なことです。そして、今回の授業で初めて自分の授業をビデオで見直す機会を持ったところ、それが充分に生かされていなかったという反省を正直に述べていました。僕は、この発見は非常に大切だと思います。本人にとっては、歴史を揺るがす大発見でしょう。思いこみや予断がどれだけ自分の目を濁らせてしまうのか、それに対抗する手段を得ることが今後にどれだけ有効か。我々の誰もが抱えている課題ですね。そしてさらに劇的なのは、人から教わったのではなく発見者は自分自身であること。

研究会当日の夜、太田先生からもらったメールにあった言葉には涙がこぼれました。「…言い訳をしたり腐ったりをやめて、頑張ろうという気力がmaxに達しました。」ここから学ばなければ、僕らは教師として失格ですね。太田先生、ありがとうございます。

参加者は20名、恒例の英検カレンダーもちょうど配り切れて新しい年の最初の会にふさわしい研究会ができました。(文責:杉本 薫@東陽中学校)

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